
CO₂を「減らす」だけではなく、「活かす」時代へ
私たちは長い間、CO₂を「減らすべきもの」と考えてきました。
地球温暖化の原因となる温室効果ガスとして、社会や企業は排出量削減に取り組んできました。省エネルギー、再生可能エネルギーの導入、製造工程の効率化など、脱炭素に向けた取り組みは世界中で進んでいます。
もちろん、CO₂排出量を抑えることは、これからも重要です。
一方で近年、新たな考え方が広がり始めています。それは、排出されたCO₂を削減対象として捉えるだけでなく、新しい資源として活用するという発想です。
もし、これまで削減すべきものと考えられてきたCO₂が、未来の建物をつくる素材になるとしたら。
この発想を支える技術の一つが、CCU(Carbon Capture and Utilization:CO₂の回収・利用)です。
日本語では「CO₂回収・利用」と呼ばれるCCUは、排出されたCO₂を回収し、新たな素材や製品の原料として活用する技術です。
つまり、CO₂の排出量を削減するだけではなく、「価値あるものへ変える」。それが、カーボンリサイクルの考え方です。

建物は「使う時」だけでなく、「つくる時」から評価される時代へ
この変化が大きく表れ始めている分野があります。
それが、建設・建築分野です。
これまで建物の環境性能を考える際には、空調設備や断熱性能など、建物が完成した後のエネルギー消費が重視されてきました。
しかし現在、注目されているのは、それ以前の段階です。
建材の製造、資材の輸送、施工、そして建物が役目を終えた後の解体やリサイクル。建物のライフサイクル全体で発生するCO₂を評価する考え方が広がっています。
これが「エンボディド・カーボン(Embodied Carbon)」です。
建物のライフサイクルに伴うCO₂排出は、使用段階だけでなく、建材の製造段階などでも発生しています。その事実に世界が目を向け始めています。
背景には、制度の変化があります。
EUでは2024年、「建物のエネルギー性能指令(EPBD)」が改正され、2030年以降の新築建築物について、ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を算定・開示する仕組みが導入されます。
日本でも、国土交通省は2028年度を目途に、建築物LCAの実施を促す制度の開始に向けた検討を進めています。
これからの建築では、「建物を使う時にどれだけ省エネルギーか」だけではなく、「どのような素材で建てられているか」も問われる時代になろうとしています。
建材そのものが、企業の環境戦略や競争力に関わる重要な要素になり始めています。

回収したCO₂を「どう活かすか」が次の課題に
こうした変化の背景には、CO₂そのものの価値が変化していることがあります。
世界では現在、CO₂排出量に価格をつける「カーボンプライシング」の導入が進んでいます。
EUの排出量取引制度(EU-ETS)や、2026年に本格運用が開始された炭素国境調整メカニズム(CBAM)などにより、企業には自社だけでなく、原材料調達から製造、輸送、販売までを含めたサプライチェーン全体でCO₂削減に取り組むことが求められています。
その結果、ライフサイクルなど所定の条件に基づいてCO₂排出量が比較的少ない素材や製品への需要は、世界的に高まっています。
一方で、脱炭素を進める上では、もう一つの課題があります。
それは、「回収したCO₂を、その後どうするのか」という問題です。
CO₂を回収し、地中へ貯留するCCSも重要な選択肢の一つです。しかし、社会全体で脱炭素を進めるには、CO₂の貯留に加え、製品や原料として利用する選択肢を組み合わせることも重要です。
環境面の効果と経済合理性の両立は、カーボンリサイクルの普及に向けた重要な要素の一つです。

CO₂から生まれる建材。カーボンリサイクルを社会実装へ
TBMが取り組むカーボンリサイクル事業では、工場や発電所などから排出されるCO₂を回収し、資源として活用することを目指しています。
回収したCO₂は、そのまま保管するのではありません。廃棄物由来のカルシウムと化学反応させることで、CCU炭酸カルシウムと呼ばれる原料へ転換します。
この原料は、建築資材やエクステリアなど、さまざまな用途への活用が期待されています。
ここで重要なのは、CO₂を固定すること自体が目的ではないということです。
目指しているのは、CO₂を社会の中で使われ続ける製品に取り込み、長期間価値を持つ資源として循環させることです。
その一例が、TBMが開発を進めるカーボンリサイクル床材です。
この床材の特徴は、単に「CO₂を使った建材」であることだけではありません。目指しているのは、床材として求められる性能や施工性を備えながら、そこに「CO₂を製品の中に固定する」という新たな環境価値を加えることです。
床材には、CO₂を原料として生成したCCU炭酸カルシウムを約70%配合しています。
製品1㎡あたりでは、約2.7kgのCO₂を固定します。
ただ、環境面の特徴だけで、建材として広く普及するわけではありません。
実際に建築空間で使われるためには、耐久性や施工性、意匠性など、床材として求められる基本的な条件を満たす必要があります。
そのため、この床材では、商業空間などでの利用も想定した耐久性や剛性を確保し、水や湿気の影響にも配慮した仕様としています。
さらに、施工には、接着剤を使わず床材同士をはめ込むクリック方式を採用しています。
既存の床材と同じような感覚で施工しやすくすることで、施工時の負担を抑え、工期や施工コストの低減にもつなげることを目指しています。
つまり、「環境に配慮しているから選ぶ」というだけではなく、床材として使いやすく、その上でCO₂固定という価値も持っている。
環境のために何かを我慢して使うのではなく、使いやすい床材を選んだ結果、その中にCO₂も固定されている。
そんな建材を広げていくことが、TBMの目指すカーボンリサイクル床材の姿です。
床材として使われる面積が広がれば、その分だけ、建物の中に固定されるCO₂も増えていきます。
カーボンリサイクルを研究や技術実証だけで終わらせず、実際の暮らしや建築空間の中で使われる製品として広げていく。
それによって、CO₂を資源として活用する仕組みそのものを社会に広げていくことを目指しています。
こうした取り組みは、実際の空間への導入も始まっています。
2026年には、東京都主催のアジア最大級のイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」のステージ床材として採用されるなど、実際の空間での活用も進んでいます。

「地産地生」が描く、CO₂が循環する産業インフラ
しかし、TBMが目指しているのは、一つの建材を開発することだけではありません。
その先にあるのは、CO₂が地域の中で循環する新しい産業インフラです。
現在、多くの産業は、原料を調達し、製品をつくり、輸送し、使用後に処理するというサプライチェーンによって成り立っています。
一方で、CO₂を資源として活用していくためには、排出されたCO₂を回収し、資源へ転換し、製品や原料として利用するための新たな仕組みが必要になります。
そこでTBMが構想するのが、「地産地生」というモデルです。
これは、CO₂の排出源の近くにCCUプラントを設置し、その地域でCO₂を資源へ転換する考え方です。
排出・回収・資源化・原料供給までを地域内で循環させることで、輸送などに伴う負荷も考慮したカーボンリサイクルの実現を目指します。
もし、これまでCO₂を排出していた場所が、「新しい資源を生み出す場所」へ変わるとしたら。
それは、地域の産業に、資源供給拠点としての新たな役割を加える可能性があります。
CO₂を見る目を変えることから、新しい産業は始まる
カーボンニュートラルの実現は、一つの技術だけで達成できるものではありません。
再生可能エネルギー、省エネルギー、資源循環、そしてカーボンリサイクル。それぞれの技術が役割を担いながら、社会全体の仕組みを変えていくことが求められています。
これまで、CO₂は「減らすべきもの」として見られてきました。
しかし、これからは違う視点が必要になるかもしれません。
CO₂は、削減すべき対象であると同時に、未来のものづくりを支える資源にもなり得る。
その発想の転換が、脱炭素を「コストへの対応」から「新しい産業を生み出す挑戦」へ変えていく可能性があります。
TBMは、素材の可能性を広げる技術と事業を通じて、CO₂を資源として活用する仕組みの社会実装に取り組んでいます。
かつて排出物だったものが、新しい価値を持つ資源へ変わる。
そんな未来を、技術によって一歩ずつ形にしていきます。
CCU事業や技術の詳細については、TBMコーポレートサイトで紹介しています。CO₂を新たな資源として活用する取り組みを、ぜひご覧ください。
▼カーボンリサイクル事業ページはこちら
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