CO₂を資源に変える TBM山﨑敦義 代表取締役CEOが語る
「カーボン・ソリューション企業」へ

  • URLをコピーしました!

TBMは「LIMEX(ライメックス)」の開発から始まり、資源循環のビジネスや最近ではCO₂を回収・再利用するカーボンリサイクルに関する事業にも乗り出しています。経済産業省が潜在力の高いインパクトスタートアップに官民一体で集中支援を行う「J-Startup Impact」のプログラムで選定された国内30社のうち1社として選ばれています。

Q:まずは山﨑社長ご自身が2011年にTBMを創業した原点についてお聞かせください。

山﨑:TBM創業のきっかけは30歳の頃にヨーロッパを訪れた体験に遡ります。ヨーロッパで何百年も残る歴史的建造物を目の当たりにして人生観が変わりました。人の人生は短く、自分がいなくなった後も何百年と挑戦し続ける企業を残したい、そう強く思ったんです。やるなら地球規模の課題に挑み、兆のビジネス、グローバルに勝負できる会社を創りたいと決意しました。創業後、サステナビリティ領域に注力したのは、大きな成長市場(2050年には脱炭素や資源循環、限られた資源の有効活用などサステナビリティ関連の市場規模がグローバルで2,340兆円に達すると予測)が存在しており、気候変動や資源の枯渇といった地球規模の課題にビジネスで立ち向かえれば、自分や仲間の人生を懸けるだけの意義があると感じたからです。

Q:そうした想いから取り組まれている環境配慮型素材の「LIMEX」について教えてください。今はプラスチック代替素材に注力されています。どのような特徴とインパクトがあるのでしょうか?

山﨑:「LIMEX」の主原料は石灰石です。石灰石は、この後に紹介するカーボンリサイクル素材「CR LIMEX」の原料の成分と同じ、“炭酸カルシウム”という成分です。石灰石は、地球上の限られた地域でしか採掘できない石油資源とは異なり、日本をはじめ多くの国が自給自足できる豊富な資源です。プラスチックを「LIMEX」に置き換えることで石油由来のプラスチックの使用量を抑えられ、ライフサイクル全体でCO₂排出量削減にもつながります。エコロジー(環境)とエコノミー(経済)の両立を目指した素材で、コスト面も従来の素材と比較して競争力が高まっています。「LIMEX」は、成形用途別に素材の種類が多岐にわたるのですが、原料の配合を工夫し、既存のプラスチック成形設備でそのまま加工できる素材が多く存在します。現在、自社工場である宮城県多賀城市に位置する東北LIMEX工場だけでなく、各地で生産拠点を増やし、グローバルでサプライチェーンを構築できるようになったことで、我々の企業価値も高めることができました。

Q:現在の「LIMEX」の普及状況について教えてください。

山﨑:「LIMEX」は現在、国内外で1万社以上の企業や団体、自治体に採用されています。大手家電量販店のレジ袋や羽田空港のショッピングバッグ、また、ごみ袋、食品メーカーのパッケージ、建材、文具、日用品、ラミネート加工されたメニュー表やPOP等の印刷物など採用先が広がっています。日本のみならず海外でも LVMHグループのブランドや東南アジアで広く知られる有名スナック菓子メーカーLiwaywayの製品パッケージなどで採用が進んでいます。

Q:TBMは資源循環ビジネスにも進出しています。プラスチックの資源循環のビジネスまで手がけるようになったのはなぜでしょうか?

山﨑:カーボンニュートラルを実現していくには、環境負荷の低い素材を普及させるだけでなく、現在、焼却されている廃棄物を資源として再生させる、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が重要に感じています。なお、2022年のプラスチックを循環させる新法により、「LIMEX」を使用した製品もプラスチック使用製品に該当することになりました。神奈川県横須賀市に国内で最大級の処理能力を有するプラスチックのマテリアルリサイクルの工場を建設し、2023年から主には家庭由来の使用済みのプラスチック(容器包装、製品プラ)を回収・選別・再生しています。現在、「LIMEX」の素材開発や生産で培った技術力を活かして、高付加価値な再生材の開発、高収率の工場運営に力を入れています。


Q:今後、カーボンリサイクルに関するビジネスも素材開発、資源循環の経験を活かして、取り組まれていくということですね。これから、CO₂を資源に変える、炭素循環「カーボンリサイクル」に注力されていく背景が理解できました。では、「CR LIMEX」について教えてください。

山﨑:「CR LIMEX」は、排出されたCO₂を原料に活用した次世代の「LIMEX」です。従来は鉱物由来の石灰石の炭酸カルシウムを主原料としていましたが、それを工場の排ガス由来のCO₂と、コンクリートスラッジや鉄鋼スラグなど工場から排出されるカルシウム含有廃棄物コンクリート廃材や製鉄所のスラグなどに含まれるカルシウムを化学合成した、CO₂由来の炭酸カルシウムに置き換えました。さらに炭酸カルシウムに混ぜ合わせる樹脂部分(バインダー)もバージンの樹脂だけでなく、廃プラスチック由来の再生樹脂を使ったラインナップも既に存在します。要するに製造時からCO₂を吸収・固定した素材で、従来の「LIMEX」の環境負荷をさらに低減した低炭素素材です。実際、この「CR LIMEX」を使用した製品の中には、重量に約25%のCO₂が固定化されている製品もあります。焼却されずに長く使われれば、その間ずっと排ガス由来のCO₂が固体の中に閉じ込められ続けます。カーボンニュートラルに資するだけでなく、近い将来、カーボンクレジットの創出(温室効果ガス(主にCO₂)の排出削減や吸収・除去を「1トンあたり=1クレジット」として数値化し、クレジットを市場で取引できる仕組み)も進めていきます。
日本政府もGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の投資分野のひとつとしてカーボンリサイクル技術の育成に力を入れており、また、2050年カーボンニュートラル実現に向けたロードマップでは、2040年頃から一般的なプラスチック代替への普及開始を見込んでいます。TBMはNEDOからの補助事業の採択や大学との共同研究、国内外のパートナーと協力し、約15年早くプラスチック代替製品の実用化を実現して、2024年に「CR LIMEX」を上市することができました。すでに特許も取得済みです。2024年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)でも発表し、世界に先駆けたソリューションとして注目を集めました。

Q:従来の「LIMEX」に比べてもさらに環境負荷の低い、低炭素素材ということですね。「CR LIMEX」はどのような製品用途で展開しようと考えていますか?

山﨑:製品の成形用途は様々考えられ、既に建材メーカーとの共同開発、素材のラインナップの拡充に関する開発も進めています。特に建材など、CO₂を長期固定化することができ、耐用年数の長い製品に力を入れていきます。従来の炭酸カルシウムと比較してCO₂を固定化した炭酸カルシウムは割高になりますが、プラスチックの代替素材としてCO₂を固定化した炭酸カルシウムを利用して製品化する際、その価格の課題は抑えられ、またカーボンクレジットの創出、強靭なサプライチェーンを構築することで、価格の課題も乗り越えていけると思っています。

Q:CO₂を固定する素材が建材に使われれば、製品そのものがカーボンシンクになりますね。国際エネルギー機関(IEA)はCCUS (Carbon Capture, Utilization and Storage)をネットゼロ達成に不可欠な技術として位置付けています。また、世界の脱炭素目標達成に必要なCCUSへの2050年までの毎年の平均投資額は16.5兆円と予測されています。カーボンリサイクルに関する事業では、素材の開発以外にどのような収益モデルを検討していますか?

山﨑:ビジネスモデルのポイントは、パートナーシップと地産地生型のサプライチェーンの構築と考えています。CO₂を回収、再利用するCCU(Carbon Capture and Utilization)を事業化するには、大量にCO₂を排出する企業やカルシウム廃液を排出する企業と連携し、排出企業の排ガス由来のCO₂と廃棄物由来のカルシウムを化学合成したCCU炭酸カルシウムを製造するプラントを各地に展開する必要が出てきます。CO₂を多量に発生する地域は世界に広がっているため、排出源ごとにCO₂を鉱物化→製品化→その場で利用という、資源・炭素循環モデルを各地で回せれば理想的です。そうなれば輸送コストも削減できますし、各産業が自ら排出するCO₂を原料に、付加価値製品を生み出す循環モデルにつながります。TBMは工場や発電所のCO₂を固定化したCCU炭酸カルシウムを活用する技術検証も進めてきました。今後、TBMのCCUに関する技術と素材開発力を活かし、CO₂の排出削減に積極的な国内外のパートナーと組み、CCU炭酸カルシウムの生産、ライセンスビジネスの展開も視野に入れています。

Q:単なる素材メーカーの枠を超え、CCU、炭素削減の価値をプラント展開等も通じて提供していくビジネスですね。

山﨑:環境対応というと、コストがかかるイメージがありますが、現在の「LIMEX」のビジネスにおいても製品の用途によっては従来のプラスチック製品と比較して、コスト面でも競争力がある製品が存在します。CO₂を固定化した素材を使えば、その分排出削減や吸収量としてカーボンクレジット化できる見込みがある中で、素材や製品の販売だけでなく、環境価値そのものを経済価値に転換していく取り組みを進め、パートナー企業の排出量の削減支援から、プラント展開、そしてカーボンクレジット創出まで、一気通貫でカーボン・リクリエーションを実現していく、「カーボン・ソリューション企業」へ進化していく考えです。

Q:最後に「進みたい未来へ、橋を架ける」というミッションステートメントを掲げていますが、TBMをどのような企業に育て、どんな未来を実現したいとお考えでしょうか?

山﨑:スピード感が重要です。当社は創業から新素材と資源循環のビジネス、さらにカーボンリサイクルに関するビジネスまで踏み出しました。TBMの事業はG20やCOP等で紹介いただき、資源循環推進協議会も立ち上げ政策提言に関与、様々なESGに関するイニシアティブにも参加していますが、日本発世界を目指すディープテック、GX分野のスタートアップとしては、高速スピードで世界に果敢にチャレンジし続けたいと思います。TBMのミッションに掲げている「橋を架ける」というのは、持続可能な未来に向けて、我々が架け橋となり、サステナビリティ革命を起こす、という未来意志です。多くのステークホルダーの方々と地球規模の課題にビジネスで挑み、世の中の当たり前を変えていく、その気概でやっています。注力する事業やポートフォリオの戦略を変えながら、挑戦領域を広げ、常に次のイノベーションを追求したい。ステークホルダーの皆さんに「TBMなら地球規模でインパクトが出せる」と確信してもらえるような、成長ストーリーを描き、志をこれからも貫いていきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次